この事例の依頼主
70代 女性
依頼者は70代の女性で、歩道上で後方から自転車に衝突されて路上に転倒し、右手関節の骨折、眼窩底骨折等の傷害を負って3か月以上入院しました。その後、依頼者は転院して通院治療を続けていましたが、右肩の痛みがなかなか引かないため更に転医してMRI検査を受けたところ、右肩の腱板断裂が判明しました。依頼者は縫合手術を受けたものの、右手関節の機能障害、右肩関節の機能障害が残りました。
相談を受けた弁護士は、自賠責調査事務所による後遺障害等級の認定手続を利用できないため、示談交渉に時間をかけず、当初から11級相当の後遺症が残った前提で、訴訟提起する方針で臨みました。訴訟では、相手方は右肩の腱板断裂について、当初入院した病院の救急処置記録上、上肢は左右ともに挙上可能と記載されており、事故から10か月が経過して初めて診断されたこと等から、「事故後に何らかの理由によって腱板断裂が発生したものであり、右肩の可動域制限は事故との因果関係がない」と主張してきました。当方からは、病院の診療録及び看護記録一式を入手、証拠提出し、事故から2日後の看護記録上、依頼者が右肩が挙がらなくなったことを訴え、看護師が自力挙上ができないことを確認して主治医にその旨伝えたこと、主治医はCTやレントゲン撮影がなされているので経過観察のままとしたこと、救急処置記録上も右肩を打撲している記載があること等を指摘して、右肩の腱板断裂は本件事故により生じたもので、右肩の可動域制限は本件事故によるものだと主張しました。その結果、裁判所より、右肩の腱板断裂は本件事故により生じたものであることを前提に、「1上肢の3大関節中の2関節の機能に障害を残すもの」として、11級相当の後遺症慰謝料を前提とする和解案が示され、和解が成立しました。
本件は右肩の可動域制限の原因となった腱板断裂について、事故との因果関係があるかどうかが争われました。肩の腱板断裂は、外傷によって生じる場合もあれば、腱板の老化によって日常生活動作の中で生じる場合もあり、事故との因果関係を確定診断するにはMRI検査が必要とされます。本件では、当初入院した病院において肩のMRIが施行されていなかったため、これに代えて、看護記録等を丹念に検討し、詳細な主張をせざるを得ませんでした。また、本件は「自転車事故」であり、自動車事故のように調査事務所による後遺障害の認定手続を経ることができないため、主治医の後遺障害診断書の検査結果(可動域測定)を基に、労災の認定基準をふまえて後遺障害の主張を展開せざるを得ませんでした。仮に、右手関節の機能障害だけが後遺障害として認定される場合、12級相当に止まりますが、右肩関節の機能障害も認定されますと、2つあわせて11級に相当します。裁判所基準の慰謝料は、12級が290万円、11級が420万円で、130万円もの差があります。労災の認定基準を詳解した「障害認定必携」を熟読し、漏れがないか検討する必要性を痛感しました。