この事例の依頼主
30代 男性
相談者は、朝、通勤のため、最寄り駅までの道(歩道)を歩いて、歩道に隣接するタクシー会社の支店の前を通過しようとしていた。タクシー会社の支店から営業に向かうタクシーは、同支店の敷地から歩道を跨いで公道に出る必要があったところ、歩道上を歩いている被害者に気付かずに歩道を横断しようとしたため、被害者と危うく接触しそうになった。被害者は、驚愕し、咄嗟にタクシーとの接触を避けようとしてバランスを崩し、足首を挫いてしまった。被害者は、そのまま立ち去ろうとするタクシーを走って追いかけて停止を求めた上で、足首を挫いたから、後日、病院で治療を受けてその治療費等を請求すると述べた。そのタクシー運転手は、タクシー会社に言ってくれ、と言った後、自分の名前を被害者に告げて走り去ってしまった。ところが、後日、被害者が、病院で治療を受けた後に、タクシー会社に請求に行くと、タクシー会社は、非接触を理由に治療費の支払いを拒んだ(しかも、タクシー運転手が被害者に伝えた名前は偽名であった。)。小職は、その被害者から依頼を受けて、タクシー会社加入の自賠責保険会社に対して、治療費等の支払を求めて被害者請求を行った。ところが、自賠責保険の調査事務所は、事故と怪我との因果関係(相当因果関係)が認められないとして、被害者の治療費等の請求を認めなかった。そこで、被害者が、タクシー会社を相手方として、治療費等の支払を求めて損賠賠償請求訴訟を提起した事案である。
被害者は、本件事故の後、そのまま出勤し、その日が宿直勤務であり、その翌日が日曜日であったため、結局、病院の受診は、事故から2日後になってしまった。本件事故が非接触事故であったこと、被害者が本件事故後にタクシーを走って追いかけていたこと、病院の受診が事故から数日経っていたこともあって、裁判では、タクシー会社が、被害者の足首捻挫は本件事故とは無関係であると主張した(自賠責保険でもそのような判断がなされていた。)。もっとも、本件事故については、タクシーにドライブレコーダーが搭載されており、本件事故の様子が比較的克明に映っており、被害者が驚いて足を挫く様子が窺えた。被害者代理人であった小職は、ドライブレコーダーの映像、医療記録、被害者が警察への被害届(診断書)の提出を速やかに行っている事情などを丹念に主張・立証し、証人尋問(本人尋問)でも、詳細な尋問を行った結果、第一審では、裁判所が、当方の主張を全面的に認める判決を出してくれた。もっとも、その後、タクシー側が控訴し、控訴審では、被害者の請求を若干減額する内容で和解が成立した。
自賠責保険において、事故と怪我との因果関係が否定された場合(非接触事故の場合、自賠責保険では、因果関係が認められにくい傾向にあります。)でも、裁判でその認定をひっくり返すことができる場合があります。被害がそれほど大きくない場合には、裁判までして治療費等を請求することに躊躇を覚えることも多いと思いますが、相手方の対応が悪く、我慢ならないと思った場合などには、一度、相談に来てみてください(損害が大きい場合には、尚更だと思います。)。